【財務分析】XBRLから「会計利益先行率」を可視化してみる。ソフトバンクグループ。

最近の中間決算で最も注目を集めたのはソフトバンクグループ。ウィーワークのIPO頓挫を受けての中間決算では、孫社長自ら「真っ赤っか」と評する大赤字。ネットでは倒産の危機を煽るような記事や動画が多数見られます。そんな中で、デイリー新潮に掲載された細野祐二先生の記事(「孫正義」一世一代の大芝居で取り繕う窮状 真っ赤っかどころか火の車「ソフトバンク」破綻への道)は専門的な分析でとても興味を惹かれました。細野先生はかつて日本航空の実質債務超過をいち早く見抜かれた方で、その後も様々な企業の財務分析で活躍されています。個人的にも氏の著作はほとんど読んでいて、会計がわかるとこんなこともわかるのかと感動することも度々。

今回はそのデイリー新潮の記事で、財務分析の指標として取り上げていた「会計利益先行率」の可視化に取り組んでみました。「会計利益先行率」は、当期純利益を営業キャッシュフローで割ったもので、上記の記事では「利益にどれだけ現金の裏付けがあるかを示す数値」として紹介されています。ソフトバンクグループの場合、この指標が適正水準の50%から急激に上昇していて、会計上の利益とキャッシュの乖離が進んでいることを表しています。

公開中のXBRLシステムでは、チャート化したい指標だけでなく、その指標を計算するために使った勘定科目も表示するようにしています。そうすることで、利益先行率がなぜそのような数値になっているのか、なぜ変化しているのかその原因を類推するための手がかりも同時に得ることができます。「会計利益先行率」においては、XBRLからその計算の元になる当期純利益(ProfitLoss)と営業キャッシュフロー(NetCashProvidedByUsedInOperatingActivities)をバーチャートで表示し、そこから計算される会計利益先行率をラインチャートとして重ねることにしました。

以下は、通信大手4社の会計利益先行率推移です。4社ともIFRS適用会社であるため、EDINETではフルセットのXBRLは2年分しか取得できず2年推移の寂しいチャートになってしまいました。

通信大手4社の会計利益先行率推移チャート
通信大手の会計利益先行率 2019年3月期

ソフトバンクグループは、もはや投資会社なので4社を並べることにはあまり意味がないかもしれませんが、他社と比べて先行率が倍ほど大きいことがわかります。ちなみにここで表示している利益先行率は、デイリー新潮の記事で掲載されているソフトバンクグループの先行率とは値が異なります。理由は、記事では「親会社株主当期純利益」が使われているのに対して、このチャートでは連結純利益をそのまま使っているからです。作成にあたっては、両方の値でそれぞれ作ってはみたのですが、分母となる営業キャッシュフローは純利益(連結)若しくは税引前利益(連結)から間接法で計算されており、分子も連結純利益の方が相性がいいのではないかと思った次第です。問題があれば親会社株主帰属分を使った計算に変更したいと思います。

サンプルとしてもう一社描いてみます。昨年来財務的にもいろいろと話題となり、先頃ソフトバンクグループの一員となったZOZOです。

ZOZOの会計利益先行率推移 2019年3月期
ZOZOの会計利益先行率推移 2019年3月期

ZOZOの利益先行率は100%前後とこちらも高めで推移しています。営業キャッシュフローが純利益とほぼ同じ水準まで抑えられているのは、キャッシュフローに何かしらのマイナス要因があるからでしょう。公開中の財務チャートシステムでは、各種分析チャートや勘定科目明細チャートをインタラクティブに表示できるので、いくつかのチャートを合わせてみることでその原因を追うことも可能です。営業キャッシュフローのマイナスに寄与するものとしては、例えば在庫の増加。棚卸回転日数で見てみます。

ZOZOの棚卸資産回転日数推移 2019年3月期
ZOZOの棚卸資産回転日数推移 2019年3月期

或いは、売掛金の増加。売上債権回転日数で見てみます。

ZOZOの売上債権回転日数推移 2019年3月期
ZOZOの売上債権回転日数推移 2019年3月期

ZOZOの場合、この4年で見ても売上が倍以上と成長を続けているので、在庫や売掛金が増えるのも自然な事ではありますが、利益率は鈍化しているようですし、キャッシュが売上の成長についていけてないのかも知れません。

なお、ZOZOもそうですが利益先行率が100%を超えるからと言って、そのまま危ない会社を意味するわけではありません。実際、テストがてら100社程度の利益先行率を見てみましたが、100%前後の会社はザラにあるようです。この指標においてもそれぞれの会社の財務的な事情が反映されるので、個別の勘定科目や財務分析チャート、その会社のIRの資料等で確認しなければ詳細はわかりません。

このチャートシステムでは、キャッシュフロー計算書の計算構造や各科目の明細チャートも表示できるので、ご興味のある方は、気になる会社の会計利益先行率やその数値が意味するところを財務分析チャートや科目明細から財務状況を推理してみてはいかがでしょう。チャートシステムの入り口はこちら

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA