財務諸表にみるコロナの影 米航空業界

コロナ(COVID-19)による緊急事態宣言下、ステイホームウイークと改名されたゴールデンウィークも中盤に入りました。6日期限とされた緊急事態宣言も続行が決定。例年の帰省ラッシュもなく観光地も閑散として経済活動は止まったまま。世界大恐慌さえ現実味を帯びてきました。

この経済活動停止による突然の需要消滅は、企業の財務諸表にも多大な影響を与えているはず。財務諸表ハックでは、この歴史的な財務諸表の変化を可視化していきたいと思っています。直近では3月期のデータが対象になりますが、3月決算会社のXBRLが出揃うのは株主総会も終わる6月末。3月四半期(例えば12月決算会社の第1四半期)のXBRLは今月後半になるのでこちらもまだ先。一方で米国企業は、日本企業より概ね1ヶ月早く既に3月を含む四半期(多くは12月決算会社の第1四半期)の登録が始まっています。そのため当面は米国企業に焦点を当てコロナの爪痕を追ってみます。

第1回は航空業界。日本では連日のように羽田や成田空港に大量の航空機が駐機している異様な様子が伝えらています。飛行機を飛ばさなくても巨額の固定費がかかる航空会社にとってこの状況は深刻です。では米国はどうなのか。

米国の航空業界の代表格はアメリカン、デルタ、ユナイテッドの3つ。日本代表ANAとJALの売上を合わせても3.5兆円程ですが、米3社はそれぞれ1社で4兆円から5兆円程の売上がある巨大キャリアです。このうち本日(5/3)時点で第1四半期のXBRLが登録されているアメリカン航空とデルタ航空を取り上げてみます。

第1四半期は1月から3月の3ヶ月。米トランプ政権による非常事態宣言が出されたのは3月13日。それ以前から各国の渡航制限も始まっていたので2月以降既に影響は出ていたと思われますが、本格的な影響は3ヶ月の内1ヶ月程度、まだ始まりにすぎませんが各財務諸表をチャートにしてみます。

・損益計算書(営業損益、四半期推移)

米航空会社、アメリカン航空、デルタ航空の営業損益推移(四半期ベース 2020年3月期)
米航空会社、アメリカン航空、デルタ航空の営業損益推移(四半期ベース 2020年3月期)

前第1四半期(2019年3月期)と比べると費用が減らないところで売上は約2割減、営業赤字に転落しています。特にアメリカン航空は大幅減益となっています。ちょっと気になるのは両社の営業利益率の差。同業でありながらデルタはアメリカンよりかなり収益力があるようです。日本企業と違って米国航空会社は費用の内訳も細かくXBRLで公開しているので、コスト構造も分析できます。財務諸表ハックでは、各段階のPL、更には各勘定科目明細まで表示できます。記事の最後にリンクを貼っておきますので、興味のある方はステイホームの暇つぶしに経営分析でも。

・貸借対照表(四半期推移)

米航空会社、アメリカン航空、デルタ航空の貸借対照表推移(四半期ベース 2020年3月期)
米航空会社、アメリカン航空、デルタ航空の貸借対照表推移(四半期ベース 2020年3月期)

チャートの赤いブロック、純資産(Stockholder’s Equity)がマイナスの側にある時はいわゆる債務超過の状態。アメリカン航空はコロナ以前に債務超過ですが、その金額は12月期から一機に26億ドルまで大きく膨らんでいます。ただ、日本で債務超過と言えば危機的状況で上場廃止のカウンドダウンを意味しますが、米国では財務戦略的な場合もあるので一概には言えません。米国企業の債務超過については、以前米マクドナルドの例を記事にしていますのでそちらも参照ください。アメリカン航空も連続黒字を続けている中での債務超過なので財務戦略的なものと思われます。両社とも12月期から純資産が減りその比率も落ちていますが、その一方でBSの背丈が高くなっているのは、負債が増えているため。その様子をキャッシュ・フローで見てみます。

・キャッシュ・フロー計算書(四半期推移)

米航空会社、アメリカン航空、デルタ航空のキャッシュ・フロー推移(四半期ベース 2020年3月期)
米航空会社、アメリカン航空、デルタ航空のキャッシュ・フロー推移(四半期ベース 2020年3月期)

前第1四半期(2019年3月期)と比べて営業キャッシュ・フローは激減、一方で財務活動によるキャッシュ・フローがプラスに転じています。デルタ航空の場合53億ドルの流入超過。日本でもANAが1兆3千億円の融資枠設定を金融機関に求めているというニュースが流れていましたが、一部政府保障をつけるよう政府に要請しているとのこと。今のところ資金繰りに問題はないようですが、この状況下では早めに融資枠を確保したいのもわかります。

ちなみに先の貸借対照表でアメリカン航空はコロナ以前に債務超過になっていましたが、その主犯はCFの財務活動のキャッシュ・フロー(Net Cash Provided by Financing Activities)の内訳に出てきます。チャートシステムではCFの赤いところをクリックすると下位勘定科目のチャートが表示されますが、その中の「Payments for Repurchase of Common Stock」が主な原因です。米企業の多くが自社株買いと配当で純資産を極限まで削っています。低金利と安定した営業キャッシュ・フローが前提の財務戦略ですが、今回のような事態に陥ってしまうと厳しいものがあります。

米航空会社の3月末時点の状況を見てきましたが、日本のANAとJALも同様のはず。ANAとJALの3月本決算のXBRLは6月末になるかと思いますが、この2社の財務諸表はその時にまたご紹介したいと思います。参考までに12月時点のPL(最終損益)は以下です。

ANA、日本航空の損益推移(四半期ベース 2019年12月期)
ANA、日本航空の損益推移(四半期ベース 2019年12月期)

第3四半期時点では、ANAが866億円、JALが802億円の黒字です。通期の決算は4月末で既に発表になっていてANAが276億円、JALが534億円と最終黒字を確保しているようですが、第3四半期の赤字で大幅減収となっています。この2社も含め日本企業の純資産は厚めなので多少の余裕はあるかと思いますが持久戦にも限界があります。国によっては既に経済活動再開に向けて動き始めているようですが、企業財務はまさに時間との戦い。我が日本国政府の出口戦略が待たれます。

なお、財務諸表ハックでは、個別企業のデータ更新を進める一方で、3月決算のXBRLが出揃う6月末に向けて、全上場企業、業界毎の各種統計情報を可視化する計画を進めています。売上や利益などの激減はマスコミでも発表されると思いますが、こちらでは売上、損益はもちろん、債務や棚卸資産等を絡めた各種経営指標の統計情報の推移チャートを検討しています。準備ができましたらまたご報告したいと思います。

最後に、この記事で画像として掲載したチャートは、以下のリンクでインタラクティブチャートとして無料で公開しています。勘定科目等をクリック(タップ)すると、下位の勘定科目明細が表示されるなど分析も可能です。使い方は、こちらでも紹介しています。PC版では、同一画面で複数社の財務チャートを比較できます。

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